地域の物語ワークショップの舞台発表が終わったので、今現在の振り返りをしておきます。
■ワークショップとしての地域の物語
市民に開かれた公共劇場として作られたのが世田谷パブリックシアター。
演劇やダンス作品を上演する劇場という枠を超えて、誰もが参加できるワークショップなども企画運営しています。
アウトリーチといって、市民が劇場に足を運んでくれるのを待つだけでなく、劇場から地域社会に積極的に進出していく活動をしていこうという活動をしています。
ヨーロッパやアメリカではかなり普及しているスタイルなんだそうです。
日本ではここ世田谷パブリックシアターが手本となるべく積極的に活動している劇場です。
なので、学芸というセミナーやワークショップ部門も洗練されています。
劇場という場所と建物だけでなく、学芸というスタッフが充実していて受け皿としての体制は万全のようにみえます。
その器にワークショップを全国各地でやっているステキな人たちを講師に迎えたり、ワークショップを開催する人を養成するような講座も開催しています。
この地域の物語ワークショップも1998年から始まり、毎年開催され、今回が15回目になります。
と一般的な説明はこれくらいにして、感想を書いておきます。
僕たち参加者が15名、進行役のアーティストが2名、学芸スタッフが3名というチームでワークショップをやりました。
時にはスタッフも一緒にワークショップに参加し交流したりもしました。
明確な役割はどんどん希薄になっていきました。
誰もが平等であるという感じで、大人の尊重がある雰囲気でした。
普段は何をしているかほとんど知らないんだけど、ワークショップを重ねる毎に、その人となりがわかってくるのが地域の物語の醍醐味です。
肩書きよりも人間性が重要視されるようなそんな雰囲気。
場の雰囲気作りは公演に遊びにきた感覚で居心地がとても良いです。
過度なサービスもなく、かといって無視されるわけでもなく、それぞれがそれぞれのスタイルで時間を過ごすことができる見守りが心地よい。
進行役のたっちゃんこと楠原竜也さんは、とても細やかでよく人を観ています。
1回目でほぼ名前と顔を一致させ、名前を呼んでくれました。
「ここにいていいよ。」とそんなように言われている感じ。
アシスタントのるいるいこと千葉瑠依子さんもよく人を観察しています。
そして、たっちゃんの言うことを的確に例としてみんなに示してくれます。
言葉を体で表現できるってすごいですね。
そして、その精度が高いし、見ていてもさすがだな、あんなふうにできたらいいな、と感じさせてくれました。
このワークをやった先には、この状態が待っていると思うと意欲が自然と湧いてきます。
この進行してくれた2人はとてもシンプルでした。言葉も洗練されていて無駄がない感じ。
そして意志の疎通もバッチリでした。
意図がブレないと安心感が増します。
プログラムそのものは、本当に3ヶ月で作品が出来上がるだろうかというハラハラドキドキ感がありました。
最初の2ヶ月は、ほとんど体を動かすことに時間を使いました。
これは、ほとんど遊びのように楽しいものでした。
楽しく学ぶことができるって大事なことですね。
僕が「おおっ!」と思ったのは、いわゆるアイスブレークという呼ばれるどうでもいいワークがなかったこと。
その場をほぐすために「アイスブレークやります!」と最初にやるワークショップの90%はろくなものはありません(笑)この数字は僕の経験値ですが。
今回のワークショップで行なったワークのすべてが「ふたり」につながるようなものばかり。
そのために身体性を感覚を磨いていくものだったのです。
「なぜ、このワークをやるのか?」がとても明確になっているのはとても大切です。
必要不可欠なワークをやっているので、このワークを体験した参加者と体験しない参加者は、作品作りに大きく影響をおよぼしました。
動きがワークを体験した人のほうが明らかにいいのです。僕の目にも一発でわかるくらいに差が歴然としていました。
ワークを積み重ねることで作品が少しずつ出来上がって来る感はゾクゾクしました。
プロセスをとても大事にしているのが見事でした。
多分、ワークショップが行なわれる毎にミーティングを行なわれて、今後をどうするのか時間をかけて話し合ったんじゃないかなぁと予想しています。
ダンス経験なしでも安心して参加することができる内容だったし、経験者にはスキルアップを確実にできるエクササイズ満載でした。
作品作りに入ってからも集中力が高まっていくようなしかけをしていたように思えます。
いつ何をやるのが効果的なのか?
参加者の様子や状態をよく見ているからこそできることでしょう。
きっと、多くの引き出しを用意しておいて、現場で取捨選択をしたんじゃないかなと思っています。
最後のたっちゃんのこだわりは、舞台芸術家そのものでした。
ふだんアーティストに接する機会はないし、アーティストがどのように作品を作るかなんて見たことがありません。
結果しか見たことがないものばかり。
僕は映画でもメイキングのような制作過程がわかることがとても大好きなんです。
なぜなら、どのようなプロセスで作品を創造していくかに興味があるからです。
それを体感することで、クリエイティブな回路が自分の中にできた感じがしています。
これぞワークショップの醍醐味ですね。
たっちゃんが作品作りで細かいところまでこだわっている姿に感動しました。
このこだわりが作品に深みを増していくことを肌で感じられました。
ワークショップは結果だけでなく過程が大事と言われています。
このプロの舞台芸術家と長い時間を過ごすことで、何か大事なものを受け取った感じがしています。
料理に例えると、僕たちが素材です。どんな素材なのか、ワークを通じて吟味されていたような感じがします。それをたっちゃんが料理をするというようなワークショップでした。
この素材がとても個性的で料理するのは大変だったのではなかろうかと思います。
誰と誰を組み合わせたらより魅力が輝くのか、どんな順番で行なえばそれぞれが輝くのか、即興が得意な人にはどんな指示をすればいいのか、段取りを覚えている人には何をさせたらいいのか・・・
人をよく見ていないとできないことばかりでした。
ほんと贅沢に時間も場所もお金も使っているワークショップです。
普段できない非日常体験が大切なんです。
ただ生きるだけでなく、どう生きるのかがとっても大切なんです。
豊かな社会になればなるほど、これはとても大事なことになっていきます。
人が人として豊かに生きるとは何かを感じました。
参加者もワークショップから帰ればいろんな現実が待っています。
それをいったんすべておいて、作品作りに集中する。
もしかしたら小さな刺激かもしれないけれど、自分の持ち場に帰った時に何か変化が起きているばラッキーですね。
世田谷という地域の参加者が多いので、道でばったり会ったり、地元の話で盛り上がったり、また会おうという話がでたり、「地域」というテーマでつながれた仲間が増えていくのは嬉しいです。
そして、去年の地域の物語ワークショップ参加者が今年も参加したり、参加はできなかったけれど作品を見にきてくれたり、顔見知りが増えていきます。
サードプレイスという家庭でも職場でもない第3の場所の重要性が言われているけれど、不思議な居場所ができた感じが嬉しいです。
東京はつながりが希薄だと言われるけれど、自分が選べばつながりを持つことはできるんですね。
そのチャンスを公共が提供しているのはとってもステキです。
今この時だからこそできないこと、世田谷パブリックシアターでしかできないこと、このメンバーではないとできないこと。
それが詰まったワークショップでした。
世田谷パブリックシアターを通じて出会った人も増えてきました。
人と人が出会うからこそ何かが生まれるのです。
今回のテーマである「ふたり」という関係性を結ぶ場として最高の居場所がパブリックシアターという劇場にありました。
ありがとう!
以上です。
■地域の物語ワークショップCコース活動の記録
- 1日目 出会うことは喜びである
- 2日目 すべてが個性でしかない
- 3日目 ハッピーバースディ
- 4日目 歩こう!
- 5日目 ふたり
- 6日目 話を聞けない大人たち
- 番外編 インからアウト
- 7日目 つながる
- 合同 3コース合同プログラム
- 8日目 群舞ができた!?
- 9日目 グダグダ
- 10日目 ルールとインスピレーション
- 11日目 作品全体が見えてきた!
- 12日目 時間!時間!ダンスの時間!
- 補講日 舞台に上がる!
- 13日目 舞台稽古と最終調整
- 本番当日 「地域の物語」ワークショップ本番当日
- 振り返り 「ワークショップ」としての振り返り
- 振り返り 「作品」としての振り返り
- 合同 3コース合同プログラム上映会&振り返り
<関係先リンク>
■世田谷パブリックシアター
■Cコース「ふたり」地域の物語ワークショップ2013
■地域の物語~みんなの結婚 46名のワークショップ参加者+3名の進行役/演出家/劇作家/振付家による作品
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